東京高等裁判所 昭和24年(新を)2000号 判決 1950年8月15日
被告人
鄭銀柱
外二名
主文
原判決を破棄する。
本件を千葉地方裁判所木更津支部に差し戻す。
理由
弁護人鬼形六七八の控訴趣意第一点について。
記録を調査すると、本件起訴状の謄本が被告人等三名に送達せられたのは、昭和二十四年六月十日(記録十二丁送達報告書参照)で、原審の第一回公判期日が昭和二十四年六月十四日午前十時(記録二十二丁送達報告書及び二十三丁第一回公判調書各参照)であることが認められるから、その間三日の期間しかなかつたことは明かである。而して刑事訴訟法第二百七十五條及び刑事訴訟規則第百七十九條によれば、第一回の公判期日の召喚状は起訴状の謄本を被告人に送達すると同時に、又はその以後に爲すことを要すること及び被告人に異議のない場合を除き第一回の公判期日と被告人にたいする召喚状の送達との間には少くとも五日の猶予期間を置かなければならぬことになつており、從つて起訴状謄本の送達は第一回公判期日召喚状の送達より以前に又はこれと同時になすことを要するから、起訴状謄本の送達と第一回公判期日との間にも亦五日の猶予期間を置かなければならぬことは勿論であらう。しかしこの場合でも被告人に異議がないときは右猶予期間を置かなくてもよいものと解すべきである。ところで原審第一回公判調書によると本件被告人等三名は右第一回公判廷において右期間の点について何等異議を述べた形跡が認められないのみならず、本件起訴状謄本の送達と右第一回公判期日との間には少くとも三日の期間が存したのであるから、本件事案の性質、その他諸般の情況に鑑みるときは、右期間内に事件に関し被告人等三名がそれぞれ起訴状の謄本を読んでその内容を理解し且つ各自弁護人と打合せをしたりする時間の余裕がなかつたものとは解し難く、この点については何等所論の違法はないものと考える。
(註 原判決は事実誤認により破棄差戻)